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基調講演やシンポジウムといったメインの企画について紹介します。今回の学術集会主題は「精神科看護の創造と継承」です。

基調講演

基調講演「精神科看護の創造と継承―実践し学び合う共同体としての日精看を―」
6月15日(金)9:30-11:00

●講師

吉浜文洋(よしはま ふみひろ)

佛教大学保健医療技術学部看護学科 教授

日本精神科看護協会 業務執行理事

  

1947 年 7 月に男性看護者 50 人余で結成された「全日本看護人協会(全看協)」が日精看のルーツである。「全看協」の目的は,看護技術の向上,相互親睦であった。それから 71 年が経過している。男性看護者たちは,どのような「切実な思い」をもって「全看協」結成に集ったのかに,思いをはせることがある。時代は移り変わり,今日,日精看に集うわれわれはどのような切実さをもって日々活動しているのかと,考えることがあるからだ。
日精看の精神科看護の定義( 2004 年)は,対象を「精神的健康について援助を必要としている人々」とし,基本理念を「個人の尊厳と権利擁護」と規定している。目的・目標は, 「(対象者の)自律性の回復」 「その人らしい生活」である。このような支援を実現するために精神科看護者は「専門的知識と技術」を必要としている。「全看協」が組織結成の目的としたのも「看護技術の向上」であった。精神科看護の専門的知識・技術には,継承してきたものがあり,それを批判的に検討し「創造」,再構築したものがある。このサイクルは,次の世代でも繰り返され,その時代なりの精神科看護を「創造」していくだろう。
創造しなければならない精神科看護とはどのようなものか。それは,精神医学の症候学の簡略版ではなく,ソーシャルワークから導入された技術でもなく,精神科看護独自の「専門的知識と技術」でなければならないと思う。病院・施設,地域,いずれであれ,そこに根ざした実践的知識の体系化をめざさなければならない。それは,アカデミズムを志向する大学の精神看護学からは距離を置いたものとなるはずである。現場の問題を解決することにいかに寄与したか,それが問われる知識体系でなければと思う。看護現場にこだわり,そこから発信される「専門的知識と技術」をどう創造していくか。
日本精神科看護学術集会には,数多くの磨けば宝石になる原石のような問題提起としての事例報告や実践報告が、そして病棟や病院組織に変化をもたらす業務改善報告がもち寄られることを期待したい。日精看が,実践し学びあう共同体として,独自性のある臨床の知の集積をめざし「精神科看護を創造する」基地として継承されていくことを願う。
私自身が臨床で考えてきたことを報告する。「精神科看護の創造と継承」の具体的な取り組みがどのようなものかが垣間見える報告になればと考えている。

シンポジウム

シンポジウム「精神科看護の創造と継承」
6月17日(日)10:10-12:20

●シンポジスト

岡本眞知子(おかもと まちこ)
医療法人治久会もみのき病院看護部長

  
【略歴】

高知女子大学家政学部衛生看護学科(現在:高知県立大学)卒業後、高知県にて精神科看護に従事。1998年から8年間、愛媛県立医療技術短期大学(現在:愛媛県立医療技術大学)で教鞭をとる。2002年、愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻修士課程修了。 2006 年 4 月に高知県に戻り、社会医療法人仁生会細木ユニティ病院に 2017 年 3 月末まで勤務。同年7 月より現職。 2011 年から 2017 年まで日本精神科看護協会高知県支部長。

  
【発言要旨】

多くの看護職は「人の役に立ちたい」「病気の人々を癒やしたい」という動機から看護の道を選んでいると思います。しかし,私には強い動機づけがあったわけではありませんでした。そんな私に看護のすばらしさを教えてくれたのが,精神看護学実習であり精神科看護実践でした。そこで,マルティン・ブーバーの「我と汝の関係」と言えるような「人との出会い」を学んだのです。そして,それまで「人との出会い」と呼んでいた体験は,社会的役割を相互に果たすのみの,人生上の通りすがり,すれ違うだけの色あせたものと感じられました。
精神科看護では,看護の対象者一人ひとりとの関係を大切にしますが,それが客観的でないとか科学的でないといわれることもあります。特に研究においては,事例研究や現象学的研究は,一般化に結びつかないという理由で,研究と認められないこともありました。しかし,唯一無二の患者-看護師関係という現象を深くとらえ,その意味するところを探求することは,看護の発展にも大きく寄与すると考えられます。
また,精神科看護は具体的ノウハウでは語れないもので,どの患者にも「こうすれば OK 」というマニュアルづくりも困難です。同じ診断名の患者でも,症状の表われ方や生活上の困りごと,どう生きたいかという目標は一人ひとり違います。ですから,「この人とは初めて出会ったんだ」という真摯な態度で患者に向き合い,一からアセスメントし看護を考えつつ実践して行くしかない。精神科看護は非常に地道な行為の繰り返しです。ここで問題なのは,この行為に名前がついていないことです。ですから記録にも残らないし,同僚や後輩にも伝えられない,ひいては患者の不利益にもなることもあるでしょう。精神科看護における具体的行為の意味を分析し概念化する,つまり「名前をつける」という,精神科看護の見える化をもっとすすめて広めるべきです。 20 年ほど前にケアリング行動という視点を得ましたが,これも精神科看護の見える化だと考えます。
私は,未来に継承したいものは本物の「人との出会い」,創造し続けたいものは「精神科看護の技」をすべての看護師と共有できる方法だと思っています。

 
 
眞鍋信一(まなべ しんいち)
社会医療法人北斗会さわ病院 看護部長
 
【略歴】
1986 年、さわ病院入職。1998 年、大阪府看護教員養成講習会修了。2009 年、併設の北斗会看護専門学校へ異動。2013 年、さわ病院へ再び異動。2016年より現職。
 
【発言要旨】

精神科看護は変化してきたのか? この問いへの返答は容易ではない。変化してきたのか,そうでないのかを判断するためには,元々の基軸となる精神科看護とは何か?精神科看護によって生み出されるものはなにか? を明確にする必要があるからである。
私がこの世界に入った頃から,「いい看護」,「その人らしい生活」,「専門的な知識と技術」などのキーワードはことある時に語られていた気がする。 30 数年の年月を経た今でも,毎年 4 月に迎え入れる新人看護者たちに同じキーワードを用いながら話をしている。
ということは,これらのキーワードは普遍的な「何か」を表しており,その「何か」は,変わらず継承されていると受け止めていいのか?
変化とは,いい意味でもそうではない意味でも用いられる。変えてはいけないものが変化していないことは「継承」といえるのかもしれないが,変わらなければならないものが変わっていないとするならば,それは「停滞」を意味するのかもしれない。われわれは,「停滞」しているのではないか? 今まさにその問いかけが必要なのかもしれない。

「患者さんのためにいい看護がしたい」この垢抜けない「想い」は今の看護者にも連綿と受け継がれていると感じる。しかし,先に述べた普遍的な「何か」を明らかにする作業は「停滞」しているような気がする。なぜ「停滞」しているのか?
精神科看護を探求していく場は, 「いきいきとした実践の場」であると考えるが,この「実践の場」が「均質化」,「標準化」,「安全」などの流れによってがんじがらめにされているのではないかと感じる。どれも重要な要素ではあるが「看護の目的」ではないはずである。いつしか手段であったものが目的へと変質したのではないか。その部分への気づきが第一歩であるように感じる。
何を継承し何を創造するのか,その答えは「いきいきとした実践」を取り戻すことから始めるべきではないかと感じている。

 
 
加藤由香 (かとう ゆか)
医療法人小憩会 ACT -ひふみ 精神科認定看護師
 
【略歴】
大阪府堺市の看護専門学校を卒業後、3か所の単科精神科病院で勤務。2003 年、精神科認定看護師資格取得。2012 年より現職。
 
【発言要旨】

看護師になり,精神科看護だけを追求し 20 年以上の時間が経過した。患者の思いに寄り添いながらの看護展開ができる精神科に年数を重ねるほどにやりがいを感じている。
人の生きかたも価値観も多様化するこの時代に,精神科看護のあり方もさらなる柔軟さが求められている。ただ目の前の患者に何が提供できるかと考えていた新人の頃,実は純粋に一人ひとりのニーズを汲み取ろうとしていたと思うが,結局は病院の中での解決に終わっていたように思う。だからこそ地域の看護師となった今,「その人の価値ある人生」という幅広い視野で対象を捉え,地域医療で何ができるのかを考えながら,病院の看護師と連携する形を作ることをめざしている。
私が考える精神科看護の専門性は,患者の主体性を大事にできること。目の前の対象としっかりと向き合える感性とコミュニケーションスキルを育むこと。その上で精神科の医療アセスメントができること。そして障害と付き合いながら生きていくことを看護師がイメージでき,その人が大事にしたい生き
かたに寄り添えること。この姿勢を尊敬する先人の教えや背中を見ながら,自分の中で実践を形にしてきた。しかし,それはマニュアルやツール通りに行なうことでは成し得ないこともたくさんある。病名は同じでも患者は一人ひとり違うからこそ,今必要なケアを感じとれるかかわりを繰り返し,地道に積
み重ねること。患者とのさまざまな出会いで気づいたこの看護の姿勢を後世に継承していかなければならないと考えている。
病院でも地域でも,多職種連携が必須の時代。前述したように多様な価値観に応えられる多様な力で支援の可能性を広げるためだが,良質な連携をするためには,看護師が自分たちにしかできない専門性を意識化した上で,他職種の力を借りた方がうまくいくことも具体化し,自分たちの力を過信しすぎず,相互理解を得ながら協働する技術も求められているだろう。
そして何よりも,患者は患者である前にひとりのかけがえのない人。その人の生きてきた歴史への敬意を軽んじることなく,人としての愛情をもって誰よりも気持ちに寄り添える立場であることが,これからの時代にも精神科看護師の信念としてあたりまえに息づくことを切に願う。

 
 
●指定討論者 
末安民生(すえやす たみお)
岩手医科大学看護学部地域包括ケア講座 教授/一般社団法人日本精神科看護協会 会長
 
【略歴】
1978年、東京都立松沢看護専門学校卒業、東京都立松沢病院勤務。1990年、衆議院議員秘書。1994 年、東海大学健康科学部看護学科専任講師。2001年、慶應義塾大学看護医療学部助教授。2011 年、天理医療大学設立準備室を経て、同医療学部看護学科教授。2016年、岩手医科大学医歯薬総合研究所看護・政策研究部門教授。2017年4月より現職。
 
 
●座長
池田成幸(いけだ しげゆき)
社会医療法人杏嶺会上林記念病院 看護部長/老健在宅部 看護部長
 
【略歴】
1988年、愛知県立総合看護専門学校卒業。1992年、愛知大学法経学部法学科卒業。北林病院(精神)、一宮市立市民病院今伊勢分院(一般 精神)を経て、2004 年より現職場に勤務。2007年より看護部長。2016年より、日本精神科看護協会愛知県支部長。
 
 
仲野 栄(なかの さかえ)
一般社団法人日本精神科看護協会 業務執行理事
 
【略歴】
1985年3月、県立高知女子大学看護学科卒業。同年4月、医療法人近森会に入職し、近森第二分院に配属。1995年4月、訪問看護ステーション設立準備室配属。1996年1月、訪問看護ステーションラポールちかもり配属。2000年4月、精神障害者生活訓練施設援護寮まち配属。2002年3月、医療法人近森会退職。同年4月、日本精神科看護協会入職。2007年6月より現職。
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