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基調講演やシンポジウムといったメインの企画について紹介します。今回の主題は「質の高い看護実践を保障する~個別性と効率性の矛盾を克服して~」です。

学術集会主題
「質の高い看護実践を保障する~個別性と効率性の矛盾を克服して~」

日本の医療が急性期医療中心になって久しい。精神科医療においても、入院医療の機能分化を進めるために、平成8年度診療報酬改定で精神科急性期治療病棟入院料、平成14年度には精神科救急病棟入院料が新設され、平均在院日数の短縮が図られている。
  
現在では、新規入院患者の7割が3ヶ月以内に退院している一方、社会的入院といわれる長期入院患者も抱える精神科医療の現場では、地域生活支援事業者も含めた多職種連携が導入され、退院支援において一定の成果を上げている。しかし、急性期医療の役割を担う病棟では、患者の意向に沿った看護計画の立案すら難しい状況が起きている。その背景には、在院日数の短縮や業務繁忙によって個別ケアの時間を確保することが難しくなり、入院期間内に看護過程を十分に展開することができない状況があるといわれている。
  
身体疾患と比べて、精神疾患は科学的なデータによる病状の把握だけではなく、急性期症状が活発な患者へのかかわりを通して、病状の把握や情報収集を行う。そのため、ある程度の時間をかけなければ、個別性が見えてこず、個別の看護計画を立案するには時間を要するという特性がある。それでは、時間さえあれば個別性を十分に把握し、その患者にとって有効な看護を展開できるのであろうか。
  
患者の精神症状は細微に変化するため、普段の患者を知り、今の患者との違いを意識的に見ようとしなければ見ることができない。また、患者の個別的な情報は、意図的にタイミングよく収集しなければ得られず、チーム内でさまざまな情報共有をし、継続性を保てるようにもしなければならない。さらに、ルーチン業務をこなしながら、個々の患者の特徴に合わせた看護を実践することに苦悩しつつ、複数の患者に対応し、各々の患者たちが不公平感を覚えることがないようにしなければならないというプレッシャーもある。このように、精神科看護の難しさは、その人のためだけの看護を見いだすことをめざしながら、看護の平等化、一般化、再現性をも追求し、チーム力を活用しながら展開しなければならないというところにある。
  
しかし、どのような状況であっても、できるだけ早期に必要な情報収集して対象理解に努め、これらの情報を基に看護計画を立て、退院に向けたケアを提供しなければならない。今や、精神科医療は、隔離収容型であった入院中心から、早期に地域生活に戻ることができるような急性期治療に転換してきている。治療にスタンダードがあったとしても、患者にスタンダードはない。患者個々の特性を理解し、その患者に合った生活を支える上で、中心になるのは看護なのである。
  
「入院医療中心から地域生活中心へ」の流れの中で、一人ひとりの患者の顔をみて、患者にきちんと向き合い、患者が自分の人生を自分で生きていくサポートを行うために、我々はどのように時間を使い、何を実践していけばよいのかを考えたい。

基調講演

基調講演「質の高い看護実践を保障する~個別性と効率性の矛盾を克服して~」
6/16(金)9:30~11:00

●講師

吉野百合(よしの ゆり)

一般財団法人創精会松山記念病院 事務長/一般社団法人日本精神科看護協会 理事/精神科認定看護師
  

精神科医療は社会的な要請の変化の中で、一般医療と同等に質量ともに求められる時代になりました。

私たちの強みは個別性を重視して対象者を全人的に理解すること、家族を含めた退院調整・訪問看護などの地域活動、まさに「治し支える医療」です。

しかし、質の向上は一方で入院期間の短縮化を生み、私たちの強みに時間をかける余裕はなくなりました。

また、医療安全など医療全体が求める守備業務の増加と精神科特有の携わる人の少なさから、精神科医療現場でも効率化が必要とされるという矛盾を抱えている現状があります。

より質の高い看護をより求めている対象者へ。看護師としての原点回帰と精神科看護の専門性を再認識して、この時代を越えて行きましょう。

シンポジウム

シンポジウム「質の高い看護実践を保障する~個別性と効率性の矛盾を克服して~」
6/18(日)10:10~12:20

●シンポジスト

山田晶子(やまだ あきこ)
【現職】 地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 看護部長
【略歴】 1987 年、公立新見女子短期大学看護学科卒業、財団法人倉敷中央病院入職。 1994 年、 (現在の)地方独立行政法人岡山県精神科医療センター入職。 2008 年、看護師長。 2016 年 4 月より現職。
 
岡山県精神科医療センターは、県内の精神科基幹病院として 24 時間 365 日、精神科救急医療に対応しています。入院時より多職種チームでの連携をはかり、患者さん一人ひとりの「その人らしさ」を大切に、 「回復」と 1 日も早い「地域移行」 「地域定着」をめざした退院支援に取り組んでいます。地域支援者はもちろん、外来や急性期デイケア、訪問看護との看看連携は不可欠だと感じています。支援や人の重なりを意識しながら「看護」のバトンをつなぐことを大切に、これからも変化に合わせて動き続けていきたいと思います。
 
 
武田直子(たけだ なおこ)
【現職】 社会医療法人近森会近森病院副看護部長、総合心療センター外来
【略歴】 静岡赤十字看護専門学校卒業、静岡赤十字病院(リハビリ科、混合科病棟)勤務。1988 年より(現在の)社会医療法人近森会近森病院勤務。 2011 年、精神科認定看護師登録。
 
近森第二分院(精神科病院)は 2013 年より近森病院に統合され、総合心療センターとして再出発しました。急性期病院のなかに 1 単位の精神科病棟があり、一般診療科と同様に地域包括ケアの流れを感じています。しかし、患者理解を深め、その意思に沿った看護を展開するためには時間を要します。看護者は急性期の身体ケアのなかでも、日々の面接のなかでも、患者自身のこれまでの回復の歩みや今後の希望から、本人に
とっての入院の必要性や意味をつかむことを優先しています。在宅生活における意思や主体性を尊重できる看護実践のために、何ができるのかを考えたいと思います。
 
 
戸田耕一(とだ こういち)
【現職】 医療法人恵愛会福間病院 看護部長、日本精神科看護協会福岡県支部長
【略歴】 1989 年、医療法人恵愛会福間病院入職。 1995 年、福岡県私設病院協会看護学校卒業。2010 年より現職。 2013 年より日精看福岡県支部長。
 
 2014 年、厚生労働省より「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策の今後の方向性」が公表され、長期入院患者の地域移行に向けた支援を徹底的に行うことが示されました。しかし、長期入院患者の多くは精神療養病棟など人員配置の少ない病棟で入院生活を送られています。その結果、個別性を尊重したケアが十分行われていないという現状もあります。また、入院生活が長期になるにつれ、地域で生活するスキルや意欲の低下もみられます。このような状況下で退院支援を行っている看護者の現状と今後の課題を、皆様とともに考える機会にしたいと思います。
 
 
木曽律子(きそ りつこ)
【現職】 社会福祉法人あすなろ福祉会多機能型事業所 ピアセンター クローバー ピアスタッフ
【略歴】 1990 年、作陽短期大学卒業後 2 年間、会社に勤務するが、発病して退社。 2005 年、社会福祉法人あすなろ福祉会の通所授産施設 「 Cafe MOMO 」に通所。 2006 年、ピアサポーター養成講座を受け、地域活動支援センター「ぱる・おかやま」 にてピアサポーターとして活動。 2015 年より現職。
 
精神科医療(病院)や看護者に対して、どのようなことを望まれるのか。また、看護者にどのような理解を深めてほしいと思われるかなどについて、当事者の立場から率直なご意見をいただく予定です。

 
 

●座長

内野隆幸(うちの たかゆき)
【現職】 医療法人緑心会福岡保養院 副看護部長、日本精神科看護協会理事・教育認定委員。
【略歴】 1986 年、医療法人緑心会福岡保養院入職。 1994 年、看護専門学校緑生館卒業。 2011 年、日本精神科看護協会福岡県支部長。 2013 年、日本精神科看護協会理事。 2013 年より現職。
 
松永智香(まつなが ともか)
【現職】 JA 高知病院看護部長、日本精神科看護協会教育認定委員
【略歴】 1982 年、高知医科大学附属病院入職。 1987 年、 (現在の)社会医療法人近森会近森病院入職。 2007 年、高知県立高知女子大学大学院看護学研究科看護管理学領域修士課程修了。同年、近森病院総合心療センター看護部長。 2015 年より現職。

 

 

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